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本と映画で世界旅行

マルタのやさしい刺繍

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原題:Die Herbstzeitlosen
監督:ベティナ・オベルリ
2006年/スイス
http://www.alcine-terran.com/maruta/


ここ3年ほど仕事で通っていたスイス。その珍しい国産の映画ということで借りてみた。

チーズで有名なスイスのエメンタール地方が映画の舞台だ。私も2009年にチーズ工場を訪れたことがある。
牛が草を食むのどかな光景が広がる、明るい雰囲気の地域だ。

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主人公は、夫を亡くして9ヵ月になるという80歳の女性、マルタ。
夫の死からなかなか立ち直れないでいた彼女だが、ふとしたはずみにかつての夢を思い出す。
それはランジェリー・ショップを開くこと。

自分の店を開こう。そう思いついた途端、マルタは生き生きと活動し始めた。
しかしせっかくオープンしたランジェリー・ショップは、友人にはなかなか理解されず、かつ村の有力者や自分の息子にも非難されてしまう。
彼ら曰く、「いやらしい下着」「恥を知れ」「勝手なことをするな」。

これは昔の話なのだろうか?いや、マルタの夫の墓には2005年没とあったので、まさに現代なのだ。
首都ベルンからエメンタール地方の中心地、ラングナウ・エメンタールへは、バスと列車を乗り継いでたったの1時間。
ベルンだってそれほどモダンな都市とはいえないが、普通にランジェリー・ショップぐらいある。スイスは保守的だとよく言われることだけれど、農村部がここまでとは想像もしなかった。

ともあれ、マルタは周囲の反対にもめげずに店を続け、彼女の行為を白眼視していた人たちも徐々に彼女に影響され、味方になっていく…。

決して皆が善人ではないという田舎町の環境、狭い人間関係が引き起こすどろどろ感、そのなかでも新しいものを取り入れようという気風があること。こうした現実をうまく描いた作品だと思う。

そして何より、年齢や因習にとらわれず、悲しみを克服してやりたいことを見つけ、地道に努力するマルタは、見る人を応援したい気分にせずにはいられないだろう。

決して派手とはいえないこの映画は、スイスで相当ヒットしたらしい。
2006年にはスイスでの観客動員数1位、そして2007年にはアカデミー賞外国語映画賞を受賞している。

分かりやすい構成とともに、スイスの農村を理解するツールとして、そしてある人間の生きる姿勢を示すものとして、日本人にも受け入れやすい作品だと思う。

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      エメンタールのチーズ工場
by sawakon29 | 2011-08-01 22:33 | スイス
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